消えるはずだった予知の巫女は、今日もこの世界で生きている ――異端と呼ばれる騎士さんが、私には綺麗すぎる

「もう、怪我は大丈夫ですか?」
レイスさんが、
もう何度も繰り返されている質問を、また聞いてくる。
馬の背に揺られながら、
私は慌てて首を振った。
「え、あ、はい。大丈夫です。
もう二週間前のことですし」
……とは言ったものの。
この体勢は、正直かなりきつい。
いや、怪我の話じゃない。
馬に乗るのなんて、
ほとんど初めてに近いし、
何より、後ろにいるレイスさんとの距離が、まったくない。
背中に、体温を感じ続けなくてはいけない。
馬ぐらい、ちゃんと乗れればよかった。
そうすれば、少しは落ち着いていられたのに。
顔が赤くなるのを止められるわけもなく、
それでも顔を見られないのが、せめてもの救いだった。
女神様仕様だった頃は、
身長も今よりずっと高くて、
レイスさんとの身長差を、そこまで意識したことはなかった。
けれど、今の私は百五十センチしかない。
たぶん、
レイスさんは百八十センチ以上ある。
(年齢で言えば、
私より少しだけ年下のはずなのに)
こうして囲われるような体勢だと、
その体格差を、嫌というほど実感させられる。
……今の私って、どう映っているんだろう。
もちろん、恋愛対象じゃないのは当たり前だ。
それどころか、がっかりされているに決まっている。
あの時の告白だって、
きっと今では後悔されている。
はあ……。
でも、しょうがない。
これが本来の私の姿なんだから。
自分で選んだことだし、
自分で蒔いた種だ。
これで、レイスさんも、
きっと別の女性に目が向く。
それは……
たぶん、私にとっても、喜ばしいことなんだと思う。
もちろん、そうなったら、たぶん泣く。
でも、そのくらいは許してほしい。
失恋して泣く権利ぐらい、
私にだってあるはずだから。
沈みそうになる気持ちを振り払うように、
私は軽く首を振った。
「やはり、怪我が痛むのですか?」
頭の上から、
心配そうな声が降ってくる。
「え、あ、いえ! 大丈夫です。
ちょっと考え事をしていて……ははは」
慌てて取り繕ってから、
私は話題を逸らすように言った。
「それにしても、この国の人って背が高いですよね」
「美桜さまの国の女性は、
貴方と同じくらいなのですか?」
逆に返されて、少し考える。
「うーん……私は、それでも少し低い方ですね。
でも、あとこれくらいあれば、女性の平均かな」
自分の頭の上あたりで、
なんとなく高さを示す。
「男性も、レイスさんくらいだと高い部類ですし。
こっちに来てから、十代に見られることも多くて……」
苦笑しながら続ける。
「実際は、もう二十代後半なんですけどね」
若く見られるのは嬉しい。
けれど、素直に喜べない気持ちもあった。
「なんていうか、
年相応に見られたい気持ちもあって」
少し迷ってから、付け加える。
「……レイスさんから見ても、
私ってそのくらいに見えますか?」
返事がない。
あれ、
何か変なことを言っただろうか。
不安になって、
「あの……?」と声をかけたところで、
レイスさんが、明らかに慌てた様子で口を開いた。
「い、いや……その……
十五歳くらいに見えなくもないが……
いや、しかし……」
……あ。
気を使わせてしまったらしい。
その慌てぶりがおかしくて、
私は思わず、くすっと笑ってしまった。
「そんなに悩まなくても大丈夫ですよ」
レイスさんって、
本当に正直で、真面目だ。
きっと、こういう会話で、
何度か失敗してきたんだろう。
「……笑いすぎです」
少しむっとした声でそう言ってから、
レイスさんは咳払いを一つした。
それから、少しだけ間を置いて、
静かに言う。
「ですが……
どんな姿をしていても、
貴方は美桜さまだと、分かりました」
胸の奥が、
きゅっと締めつけられた。
嬉しくて、
でも、期待してはいけない言葉だった。
「……本当に、よく分かりましたね」
思わず、そう返していた。
「私、そんなにクセありました?」
だって、
似ても似つかないはずなのに。
「ありますよ」
即答だった。
「身振り手振りで話すところ。
笑うと、少しはにかむところ。
照れると、無意識に髪を触るところ」
一つ一つ、
淡々と挙げられていく。
「……それから」
少し言葉を探すように、
レイスさんは続けた。
「誰かを気遣うとき、
自分のことを後回しにするところも」
その一言で、
もう何も言えなくなった。
ああ、この人は――
本当に、私を見ていたんだ。
それは、同時に罪悪感にもつながる。
なぜ、私はあの姿を選んでしまったのだろうと。