消えるはずだった予知の巫女は、今日もこの世界で生きている ――異端と呼ばれる騎士さんが、私には綺麗すぎる

私は廊下を掃除しながら、ふと窓の外に視線を向けた。
ちょうど、西の森から戻ってくる騎士たちの姿が見える。

先頭に立っているのは、レイスさんだった。

彼らは、いわゆる特殊任務隊と呼ばれる部隊だ。
騎士の中でも、とくに危険な任務を引き受ける部署。

詳しい人数は知らないけれど、今回の調査には四人が参加しているようだ。

そして、西の森に最も近いこの町にある宿屋――
私が働いているこの場所が、彼らの滞在先になっていた。

以前の祭りで会ったことを覚えてくれていたらしく、
レイスさんは、あちらから声をかけてくれた。

そのとき、失礼な態度だったと、わざわざ謝ってくれたのだ。

それ以来、会えば挨拶を交わす程度の関係になった。

魔物との戦闘は、ほぼ毎日行われているらしい。
戻ってくる四人は、いつもどこかしらに傷を負っていた。

それでも、地道に封印は進んでいるようで、
西の森の旅道は、少しずつだが安全を取り戻しつつある。

私は夜からの食堂での給仕当番へと向かう。

食事の時間は十八時と二十時。
私はいつも、二十時からの担当だ。

二十時を過ぎるころには、宿泊客の多くが酒を飲んでいる。
中には、距離感の近い人もいる。

そのため、トラブルを避ける目的もあって、
この時間帯の給仕は男性従業員が中心になる。

女性従業員の場合は、あまり目立たない人間が回されることが多い。

「おお、ミユちゃん」

すでに酒の入っているコナーさんに声をかけられ、
私は笑顔で応じながら、料理と酒をテーブルに置いた。

コナーさんは商人で、二ヶ月に一度ほど、この宿に泊まる常連だ。

置いた手をつかまれ、
「若い子の手はいいな」などと言われながら、
そのまま頬に当てられる。

私は苦笑いを浮かべつつ、頃合いを見て手を引き抜いた。

「コナーさん、飲みすぎると、また奥さんに怒られますよ」

「お、ミユちゃんも言うようになったな」

そう言って、豪快に笑う。

私にとって、これはもう日常だった。

嫌な気分になることもあるけれど、
慣れてしまっている自分もいる。

最近は、自分が日に日に
“女性としての感覚”を失っていくような気がして、
内心ため息が出た。

ふと視線をそらすと、
ちょうどレイスさんたちが席につくところだった。

レイスさんが、たまたまこちらを見て、目礼してくれる。

心臓が跳ね上がる。

けれど、平静を装って、私も軽く会釈した。

その瞬間、肩を引き寄せられる。

「ミユちゃん、相変わらずちっこいなあ」

ジョンさんだった。

私は営業用の笑顔を浮かべながら、
顔を寄せてくるのを寸前でかわす。

この人も商人で、顔見知りだ。
悪い人ではない。
ただ、酔うと距離が近くなる。

「おやじ、本当にすまない」

ジョンさんの息子のマークさんが、
謝りながら父親を席に座らせた。

注文を受けて、その場を離れる。

夜が終わるころには、どっと疲れが出る。

二十二時に営業が終わり、
後片付けを終えると、もう二十三時を過ぎていた。

「お疲れさまです」

そう挨拶をして、自分の部屋へ戻ろうとしたとき――
大浴場から出てきた人影が、視界に入る。

「……こんばんは」

「こんばんは」

レイスさんだった。

湯上がりで、頬がわずかに赤い。
濡れた金色の髪が、肩にかかっている。

正直、反則だと思った。

「どうかしましたか?」

「い、いえ……ちょっと疲れて……」

夜であることに、心から感謝した。

「大変そうですね。酔っ払いの相手は」

「慣れてますから」

「でも、嫌なら嫌と言った方がいい」

見られていたのだと気づき、
私は慌てて笑った。

「皆さん悪気はないですし……
この時間帯に働ける女性も少ないので、
それが私の役目というか……」

その言葉に、レイスさんの表情が、わずかに硬くなる。

何か言いかけたところで、
食堂から声がかかった。

「ミユ、悪いけど、もう少し手伝ってくれる?」

「はい。では……おやすみなさい」

私は、その場を後にした。

後で考えて、
あれは飽きれだったのかもしれないと思った。

地味で、
距離感も守れなくて、
愛想笑いでやり過ごす。

なんだか、
最悪だな、と思ってしまった。