消えるはずだった予知の巫女は、今日もこの世界で生きている ――異端と呼ばれる騎士さんが、私には綺麗すぎる

「本当に、楽しかったです」

私は、せいいっぱいの気持ちを込めてレイスさんにお礼を言った。

「それは、よかったです。ただ……急に仕事が入ってしまって、あまり時間が取れず、すみません」

「そんな……。私のほうこそ、お仕事でお疲れなのに、お付き合いいただいてしまって」

申し訳なくなって、思わずそう口にする。

けれどレイスさんは、やわらかく首を振った。

「謝らないでください。そもそも、お誘いしたのは私ですし……久しぶりに、本当に楽しかったです」

「ありがとうございます。それにしても……ここ、本当に町の明かりがきれいに見えますね」

丘の上から、眼下に広がる景色を眺める。

「以前、連れてくるとお約束していましたから。こうして果たせて、よかったです」

――以前。

それは、私がまだ別の姿だった頃のことだ。

半年と決めたはずなのに、気づけば一年以上の時間が過ぎてしまっていた。

「あの……レイスさん」

私は深呼吸をしてから、彼のほうへ顔を向ける。

レイスさんは、少し首をかしげながらも、静かに耳を傾けてくれた。

「本当は……もっと早く言うべきだった言葉だと思います。でも……なかなか、言い出せなくて」

一度、言葉を整える。

「レイスさん、以前の私におっしゃいましたよね。このような容姿では、好意を持ってくれる人などいない、と」

その瞬間、レイスさんは驚いたように私を見る。

「あ……ですが――」

言い終わる前に、私は顔が熱くなるのを感じながら、続けた。

「でも……私は、好意を持ちました」

一瞬、彼の表情が固まる。

それから、少し照れたように微笑んで、

「あの言葉に……私は救われました。本当に、うれしかったです」

その言葉に、都合のいい考えが一瞬、頭に浮かび、私はあわててそれを消し去った。

決意が鈍らないように、なんとか言葉を絞り出す。

「私……いつまでたっても、レイスさんに気にかけていただいて……すごく、うれしいんです」

正直な気持ち。

「本当に、うれしいんですけど……」

小さく息を吸ってから、

「もし……今の私のことが、レイスさんの中で引っかかっているのだとしたら……もう、心配なさらなくて大丈夫です」

言葉を選びながら、ゆっくりと続ける。

「女王陛下のおかげで、一人でやっていける仕事もいただきましたし……今は、自分の足で立てています」

胸の奥が、少しだけ痛む。

それでも――これは、伝えなければならない。

「ですから……どうか、レイスさんは」

顔を上げる。

「ご自身の幸せを、考えてください」

しばらく、沈黙が落ちた。

レイスさんはうつむき、表情が読み取れない。

言い方が悪かっただろうか。

これは、私の本心だ。

もちろん、私の傍にいることがレイスさんの幸せなら、それ以上のことはない。

でも……そんな都合のいい話があるとは、思えなかった。

黙り込む彼を前に、どうしていいかわからなくなって、

「あの……本当ですから。レイスさん、小さい頃はつらい思い出ばかりだったと伺いましたし……だから、幸せになってほしくて……えっと……」

言葉が、どんどん散らかっていく。

そのときだった。

「……私が、ほしいのは」

レイスさんが、低くつぶやく。

そして、まっすぐに私を見る。

「美桜……あなた一人です」

「ですから、私は――」

私が続ける前に、彼は静かに言葉を重ねた。

「私にとっては、ミオであっても、美桜であっても……どのような容姿であっても、関係ありません」

意味がわからず、私は首をかしげる。

「私のことを、きちんと見ていてくれたのは……今、目の前にいる貴方です」

ゆっくりと、噛みしめるように。

「確かに、最初は以前とまったく違う姿に戸惑わなかったと言えば、嘘になります。ですが……今は、その姿のほうが自然に感じています」

少しだけ、困ったように笑う。

「もっとも……今の姿が美桜なのですから、当たり前かもしれませんが」

私の思考は、完全に止まっていた。

何を言われているのか、理解が追いつかない。

固まった私を見て、彼は少し照れたようにしてから、

「すぐに、とは申しません。ただ……」

一度、言葉を切る。

「いずれ、私の妻となることを、今から真剣に考えていただけませんか」

真剣な眼差しが、私を射抜く。

――妻。

言葉の意味が、すぐには結びつかなかった。

頭の中で何度も反芻して、ようやく理解する。

「え……あ、えっと……その……レイスさん……」

それ以上、声が出ない。

顔が、どんどん熱くなる。

レイスさんは、困ったように微笑んだ。

「突然、このようなことを言われては……困りますよね」

それから、少し真剣な声で続ける。

「もし、ほんの少しでも私のことを想ってくれるのであれば……考えていただければと」

一拍置いて、

「もちろん、嫌でしたらすぐ忘れてください。その場合でも……これからは、良い友人として、お付き合いできればと思っています」

ありえない展開に、私は言葉を失ったまま立ち尽くす。

そんな私を見て、レイスさんは本当に困ったような表情になり、

「美桜……すみません。もし嫌でしたら、本当に忘れてください。もう遅いですし、送ります」

そう言って、私の背中をやさしく押す。

「あ……あの……私……」

必死に、声を絞り出す。

「考える……時間を……その……」

途切れ途切れの言葉。

それでも、彼はやさしく微笑んで、

「わかりました」

そう、答えてくれた。