消えるはずだった予知の巫女は、今日もこの世界で生きている ――異端と呼ばれる騎士さんが、私には綺麗すぎる

「ミオ、まだ衣装借りてないの?」
食事休憩中、向かいに座ったマリアさんが、呆れたように言った。
「え、はい。
ほとんど休憩も取れてないですし……様子だけ見て回ろうかなって」
「もう。若いんだから、踊りくらい出なさい」
背中をぱしぱし叩かれる。
痛い。普通に痛い。
「はは……でも、衣装借りるのもお金かかりますし。
それに、踊る相手もいませんから」
建国祝賀祭は、朝から晩までお城の外の広場や城下町で踊りが続く。
たいまつの周りで、男女が輪になって踊る――
この国では、交際のきっかけになることも多い。
でも私には、まったくご縁のない話だった。
「だったら、ダイスでも誘えば?」
その名前を聞いた瞬間、嫌な予感がした。
案の定。
「聞いてくれるか、ミオ」
ため息混じりの声とともに、
食事を持ったダイスさんが隣に座る。
マリアさんは、
何も言わずに、さっと姿を消していた。
……逃げ足早すぎる。
結局、
私はダイスさんの失恋話に延々と付き合うことになった。

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その日は、文字通り目が回るほど忙しかった。
建国祝賀祭の二日間、
厨房はほぼ休みなく稼働し続ける。
翌日の仕込み、今日の片付け。
食事は広場で振る舞われ、
「足りなくなる」は許されない。
深夜に近い時間になっても、
私は皿を洗い続けていた。
何度目かのため息をついたところで、
「ミオ、休憩入っていいぞ」
チーフの声がかかる。
「はい。ありがとうございます」
用意してもらった食事を持って、
食堂の端の席に腰を下ろす。
夜勤の騎士たちも、何人か食事をとっていた。
「ミオ」
背後から、聞き慣れた声。
振り返ると、
そこにいたのはレイスだった。
「こんばんは」
「こんばんは。ここ、いいですか」
返事をするのとほぼ同時に、
彼は私の向かいに腰を下ろした。
……正直、今はあまり話したくなかった。
疲れ切った顔。
汗の匂い。
絶対、ひどい状態だ。
それでも。
「二日間、勤務ですか」
話題を振る。
「ああ。ミオも、似たようなものですよね」
「私は、明日の昼から結構休めますから。
レイスさんほどじゃないです」
騎士たちは、この期間ほぼ四十八時間体制だ。
短い休憩を挟みながら、城の警備にあたる。
レイスは、
その合間の食事休憩なのだろう。
会話を続けながら、
手早く食事を口に運んでいる。
……相変わらず何をしてても、絵になる。
そんなことを考えていると、
胸が少しだけざわついた。