ぐっしょり汗で濡れた手を、名刺を取る振りをしてハンカチを握り締めながら部屋の主を待つ。一回だけでは聞こえなかったかと二回目を鳴らそうとしたら、『はーい』とインターホンから声が。
『どなたですか?』
「先程ご連絡しました、この度担当させていただくことになった青崎です」
「同じく新堂です」
『ああ。イックンとこの部下サンたちだね』
(いっくん?)
親しげに呼ばれたそれが上司の名前だと気付くのに、そう時間はかからなかった。
思わず隣の新堂と顔を見合わせながら、『どーぞ』と開いたエントランスの扉を進んでいく。
「随分編集長と仲がよさそうですね」
「そう、ですね」
動揺を直隠しながらエレベーターが九階に着くと、探していた部屋はすぐに見つかった。再び押したインターホンにガチャリと玄関の扉が開いたと同時、接客業で鍛えたスマイルに切り替える。
「初めまして、雪ノ平先生。お忙しいところありがとうございます」
「…………」
「雪ノ平先生?」
「あ、うん。暑い中ご苦労様」
扉から出てきたマッシュルームカットの男性は、長めの前髪でその目元を隠していたが、その視線は何かを確かめるかのように、何故かこちらへとじっと向けられている気がしてならない。
もしや、ペンネームのことについて何も触れなかったからだろうか。この業界において、感じたままの名前と本人の性別が一致しないことはざらなのだが。
「えっと。その龍ノ平一石から、雪ノ平先生にお会いしたら一番にお渡しするようにとお手紙を預かっておりまして」
「手紙?」



