遠慮がちに吹き込む春風が、肩上で切り揃えられた毛先を揺らしていく。髪を撫で付けようとして、思ったよりも手前でストンと指先が落ちてようやく、そういえば髪を切ったんだったと思い出した。
それに思わずくすりと笑っていると、今度はまるで挨拶でもするかのように、先に小さなストーンの付いたイヤリングを風が揺らしていく。
窓際に座っている私―― 青崎 伊代 は、慣れないくすぐったさに小さく身を捩った。
(もうすぐ春ですね)
たまにはいいかもと、そんな風に口ずさみながら静かに手を合わせ、昼間の喧噪をBGMにトートバッグから一冊の本を取り出す。ではそろそろ、日課の読書に精を出すことにしようかと。



