顔に出ないよう、何か話題がないかと必死に頭を巡らす。
「そ、そういえば、一体どんな用事なんですか?」
「俺もまだ詳しいところは聞いてないんだ。佐裕子もバタバタしてるみたいだったし」
「佐裕子さん?」
まさかここで、専務の名前が出てくるとは。そういえば以前、同期の久賀野が『専務が捜していた』と言っていたが、もしかするとこのことか。
「コーヒーありがとう。じゃあその話はまた改めて」
「あ。一つだけいいですか? 了安先生のことで」
「あー。なんか上手くいかなかったらしいな」
「というよりは、会う前から逃げられました。嫌な予感がするからと」
「締め切りと戦ってるせいか、やけに勘が鋭いんだよな」
「あはは。そのせいか、先回りされて担当を変えて欲しくはないとも言われてしまい」
「んんんー」と、ボリボリ頭を掻きながら、彼は困った表情を浮かべる。今からクレーム対応に行かなければならないのに、悩みを増やして申し訳ない。
「わかった。それについても、また詳しいことは後日で」
「わかりました」
「それじゃあ行ってきまあす」と、彼は部署のホワイトボードに〈NR〉と書いて社を出ていった。
(今の時間から直帰って)
時計は、まだ15時を回ったばかり。やっぱり、一緒に行かなくて正解だった。



