「受け入れるのに時間がかかるのも無理ないわ。私だって、……私が世話してあげてると思っていた快慶の方が、実は記憶のない私の世話をしてくれてるとは思わなかったもの。それはもう、時間がかかるというか、今でもショックよ」
「ふっ。あいつは、無関心のように見えて、一番情に厚いからな」
だからもしかすると、古葉龍青が消滅したことを一番悔やんでいるのは、あいつなのかもしれない。
「言うのが遅くなってしまったな」
「何を?」
「おかえり。よく、戻ってきてくれた」
「だって、いつまでもみんな辛気くさい顔してるんだもん。戻る以外の選択肢なんかないわよ」
夕焼けに染まった空。地平線に、太陽がゆっくりと沈んでいく。
「いつの間にか力も戻ったことだし、今日はパアーっと飲みに行くわよ! もちろんあなたの奢りで!」
「そんなもんお安いご用だ」
「あ。でも介護はしないわよ。動けなくなっても放っておくから」
「そうなったらタクシー呼ぶから大丈夫だ」
「あのヒョロヒョロくんには運べないわよ」
「あいつはやればできる男だから大丈夫だ」
橙色の空の下で、誰かが大きなくしゃみをした。



