きっと、彼女は知らないだろう。いつも会う度に、抱き締めてしまいたいと思っていたことを。そのまま口付けを交わして、ずっと離したくないと思っていたことを。
どれだけ、自分が愛されていたのかを。
「……ありがとう海チャン」
「意外とあっさりしてるのね」
「いつまでも情けない姿を見せるわけにはいかないからね」
「十分見てきたけど」
君にじゃないよ。
そんな言葉はそっと飲み込んだ。きっと彼女もわかっていると思ったから。
青崎伊代が知っている了安彗星は、紳士でたまに子犬のように寂しがり屋。そして甘いものが大好きの、涙とは縁遠い大人な人間。
嘘か真実か、冗談か本音か。本当はそれを、ただ素直に言えないだけ。君に嫌われるのが怖いだけの、小心者。
でも、君の心を大切に思う気持ちだけは、誰にも負けない。
「それに、いつまでもめそめそしている方が、彼女を困らせてしまいそうだし」
「それについては同意するわ」
“――どうして。何も言わなかったんだ!”
彼女に涙を見せるのは、後にも先にもあの時だけで十分だから。



