神の力を得た人間の、空を千切った数をもう数えなくなった頃。とうとう人間の精神が崩壊を始めた。
それでもよく持った方だろうと、藍龍は一人呟く。遠回しに『もう気が済んだだろう』と、力を貸した黒龍と、心を痛め続けていた夜さりの白龍に言い聞かせるように。
『それでも、空はまだ千切り終えておりません』
けれど、彼らの瞳は諦めてはいなかった。
『白。お前まで気が触れたか』
『お言葉ですが、まだ我々の使命は続いております』
『あの人間を見よ。あのような心では、願いどころか自分の存在意義さえわかってはおらぬ』
『思い出させりゃいいだろそんなもん。約束は、ちゃんと守らないと駄目だぞ。潮騒』
そして彼らは、他の龍の言葉も聞かず、己の力を解放した。
自らの全ての力を以てして、今まさに消え去ろうとしている人間の心を守ったのだ。
『……っ。愚かなことを……』
藍龍が掴んだ、ちいさなビードロ玉のような命の欠片を残して、二色の龍はこの地を――世界を去って行った。



