まるで、そんな文字など見えていないように、彼は扉を開けて突き進む。びゅうっと、冷たい風が吹き付けた。
そこは、ビルの屋上。空は、今にも雪が降り出しそうな鈍色。それは寒いはずだと、震えが止まらない体を抱き締める。
「知っていますか青崎さん」
「逆に、右京さんにお伺いしたいです」
「何をでしょうか」
「わかっていらっしゃいますか? 諸々の発言、相当サイコパスですよ?」
そう言い返してみると、眼鏡の奥の瞳がぱちくりと瞬きする。
その後おかしそうにふっと噴き出した。
「青崎さん、変わりましたね」
「私は、右京さんの方が変わったと思いますけど」
「どうやら相当怯えさせてしまったようで」
「わかっていらっしゃるなら結構です」
ふっと、いつもの空気に戻してくれた右京は、再度私に尋ねた。
「この場所は、一体どういう場所でしょうか」
「ビルの屋上?」
「そうですね」と、彼は微笑んだ。ほんの少しだけ、悲しそうに。
束の間訪れた沈黙に、考えを巡らせる。その表情が意味するものと、彼がわざわざ私をここへと連れてきた理由を。
「あれからもう、十五年が経ってしまったんですね」
その答えは、一つしかなかった。



