結局こちらを一度も見ないまま、「それで? 伊代クンが途中で退席したことと、何か関係があるの?」と、彼は殊更ゆっくりアクセルを踏んだ。
「今更ながら、自分の将来についての問題に、直面しているといいますか」
それ以上は何も言わないまま、先程の退席理由を少しずつこぼしていった。
「自分一人が取り残されて……か」
「心配だし、もちろん不安も感じてはいるんです。でも、それなのにどうしてか、怖くはなくて」
「え。何それ。超最強じゃん」
「ダメダメですよ」
「どうして?」
「私の場合、多少危機感を覚えるぐらいでないと、現状に甘えそうな気がして」
ううん。そうじゃない。きっと、今の生活を変えることの方が怖いんだ。
今が一番、幸せだと感じているから。
「伊代クンはそれで悩んでいるようだけど、僕は決して悪いことだとは思わないよ」
ふっと目尻にやさしく皺を寄せながら、彼は思いを巡らすように吐露する。
「君がつらそうにしているのを、僕はずっと見てきたから」
「初めこそ緊張していましたけど、先生とお仕事するのは楽しかったですよ?」
「君には笑っていて欲しかったからね」
「……先生?」
「君はつらいことほど抱え込むから、僕がちゃんと見ておかないと」
「えっと。ご迷惑をおかけしました……?」



