(お母さんは知らないだろうけど、私本当に頑張ったんだからね。お母さんがさっさと何も言わずに置いていくから)
やわらかくやさしい風が、髪を攫うように吹いた。ごめんねと謝っているのか、勿論知っているわよと言っているのか、そのどちらもなのか。答えはわからないけれど。
「お二人とも、お付き合いくださってありがとうございました」
おかげで、母に話すことができた。直接、笑顔を見せることができた。仲良くやっていると、安心させることができた。
「お礼を言うのはこちらの方です。僕たちのことも誘ってくださって、ありがとう伊代さん」
「お仕事は本当に大丈夫だったんですか?」
「勿論。かわいい娘のお願いを叶えないわけにはいきませんから」
「それでもここまで延びてしまってすみません」と、深々頭を下げる広夜に慌てている間、実の息子である宵は、今にも「全くだ」と言わんばかりに腕を組んで柵にもたれかかっていた。
「宵くんも、時間作ってくれてありがとう」
「約束だったからな」
「そんなにラーメン嫌だった?」
「おねえさまのおかげで、唇は無事に完治しましたよ」
それはよかったと笑みをこぼす。何のことかわからない広夜には、いろんなことを濁しながら。



