青い青い空




「――伊代!」

「はははいっ?!」


 急に呼ばれた名前に思わず返事をする。どこかで聞いたことがある声に振り返ってみると、全力疾走でもしたのか、そこには膝に手を置いて肩で息をしている宵の姿があって。


「よ、宵くん? ど、どうして……」

「ああ? どうしてだあ? ふざけんじゃねえぞこの不良女」


 加えて、こめかみにこれでもかというほど青筋を立てていた。けれど、不良女とは聞き捨てならない。


「連絡一つ寄越しゃしねえで、どこほっつき歩いてるのかと思えば」

「え。でも、夕食は外で食べるって言っ」

「御託はいらねえ。帰んぞ」

「えっ。ちょ、宵くん……!」


 手加減無しに指の付け根から握り潰され、思わず悲鳴を上げそうになる。加えて左手を左手で掴まれているせいで、思うように歩けず一歩進むごとつんのめりそうに。

 思わず振り返ると、右京は今にも『どうぞお構いなく』と言い出しそうな顔で、今まさに煙草に火を付けようとしていた。まさか、本当にこの人は全てを理解しているというのだろうか。

 しかし、一度ならず二度までも失礼な帰り際ではいられない。お願いちょっと待ってと、何とか必死に呼び止め、宵の足を止めさせた。


「あ、あの。右京さん」

「僕から申し上げられることはありません。どうぞ、お気を付けてお帰りください」

「え?」

「まあ、強いて申し上げることがあるとすれば――」


 そこまで言いかけた彼は、紫煙を纏ったまま、子供っぽい笑顔を浮かべてこう言った。

 何事も、素直が一番ですよ――と。