“んなじっと見てなくても毒なんか入れやしねえよ”
彼は、一体どういう気持ちでその言葉を言ったのだろう。
「それから彼女とは離婚し、宵の回復を祈りながら仕事に明け暮れました。結衣子さんと出会ったのはそんな時でしたね」
(そういえば、お母さんから広夜さんとの出会いって聞いたっけ……)
「躍起になって捜しておられましたよ。伊代さんの父親になるに相応しい方を」
「っ、え?」
「その時は確か、再婚を前提にお付き合いしていた方が浮気をしていたとかで、殴り合いをしたとか。一ヶ月ほど入院されて」
「そ、そんなこともあったような気がします」
恋多き母の喜怒哀楽は、それはそれはわかりやすかった。大きく育てた愛情に、よく振り回されてもいたが。
「僕も何度か言い寄られましたが、その時は丁重にお断りを。離婚の尾を引いたままでしたし、年齢差もありましたから」
「すみません。母が大変なご迷惑を」
「いつまでぐずぐずしてるのかと、叱咤激励とともに、年寄り扱いされたと憤慨されもしましたが」
「ほ、ほんとうに、母が大変ご迷惑をおかけして」
今更になって知る新事実に、正直頭が上がらなかった。
「毎日賑やかで楽しかったですよ。そんな彼女といたからか、気が付いたら離婚で負った傷はすっかり癒えていたように思います。その頃に宵も、峠を越えましたし」
だから、またとない機会を、逃がしたくないと思った。



