「発端は妻……先妻との関係が、上手くいってはいなかったからなのだろうと思います」
薬を飲むほどではなかったが、元々感情の起伏が著しかった先妻とは、幼い頃から知り合いで幼馴染みだったのだという。そんな彼女と、生まれたばかりの赤ん坊を精一杯守るため、広夜は一層仕事に打ち込んだそう。
今思えば後悔でしかないと、彼は語る。必要だったのは金ではなく、時間だったのだと。
「元々束縛しがちでしたから、家に帰れない日が続くごとに不安が募ったのでしょう」
彼女はヒステリックに叫んだ。仕事と私たち、どっちが大切なのと。
終いには不倫まで疑われ、それを毎日何度も否定して、精神科医を紹介して、何度も彼女の不安を取り除こうとした。
けれど、一向にそれが改善されないまま、ある日事件が起こる。
「彼女が用意してくれた食事の中に毒が入っていまして。心中をするために、僕だけではなく宵の食事の中にも」
平静に話すからか。彼の話の内容や言葉が、上手く頭に入ってこない。
「僕と彼女は何とか一命を取り留めましたが、まだ赤ん坊だった宵は数年の間生死を彷徨い続けました」



