広夜が食べ終えたのを見届けて席を立つ。食器を片付けようとしたところで、「少し、いいでしょうか」と声をかけられた。
(今日一日で、十数年分の声を聞いた気がする)
その事実を痛感していると、目の前に座る広夜が深々と頭を下げてきた。
「この度は、宵が大変なご迷惑をおかけしました」
ずしりと、謝罪が重く伸し掛かる。如何にも他人行儀な一言に、「大丈夫です」と必死に取り繕った。
「どちらかというと、謝らないといけないのは私でしょうから」
「それは、宵が人を殴った原因があなただからでしょうか」
それに小さく頷く。そして私も頭を下げた。大変申し訳ありませんでしたと。
「大層な人間ではありませんが、宵くんの将来を邪魔するようであれば、この家から出て行くことも、絶縁することも厭いません」
「今回のことは宵が勝手にやったことです。あなたのせいではありません」
「けれど、私がいなければ宵くんは」
「あなたがいなければ、宵はあそこまで真っ直ぐな人間に育ってはいなかったでしょう」
相変わらず表情が変わることはなかったが、その言葉は今まで聞いたどの言葉よりもやさしいものだと思った。
「僕たちは、欠陥人間ですからね」
「え……?」
聞き間違いかと思うほど小さくそう漏らした広夜は、「少しだけ、昔話をしましょうか」とゆっくりと口を開いた。



