「おい馬鹿」
そう言われて、涙でぐしょぐしょになった顔を何とか持ち上げる。「酷え顔だな」と、笑いながらビニール手袋を付けた手が、涙を何度も拭ってくれた。
「顔洗ってこいよ。ついでに風呂でも入ってくれば」
「で、でも。宵くんが作ってくれてるのに」
「ここにいたってただ駄々捏ねて邪魔するだけだろうが」
「座ってろって言ったのは宵くんでしょ」
「気が変わった。一人で黙って料理がしてえ」
「酷い」
クスッと笑う宵に対し、私は上手く笑えなかった。何故か、目が異常に痛かったからだ。
「いたっ」
「どうした?」
「目が。なんかひりひりして……」
「だろうな。さっきまでタマネギ切ってたし」
信じられない! と、気付けば叫びながら、バシバシと彼の背中を叩いていた。
「痛い! すごく痛いんだけど!」
「だからさっさと風呂行ってこいっつってんだよ」
「わざとなの!? 確信犯なの?!」
「面倒だから二時間ぐらい出てくんなよ」
タマネギを触った手だったからか、足で蹴りながらダイニングから追い出された。
「全然やさしくない!」
「どこ見て言ってんだばーか」
きっと涙が止まらないのは、タマネギのせいだ。



