イッコ:
《こっちのことは気にするな
今は弟くんに付いていてやれ》
まるで何もなかったかのような仕事マンに戻っていた一石のおかげもあり、休み明けからは自分の仕事だけに集中することができていたのだが。まさか、こんな事態になろうとは。
(宵くんは賢い子だもの。暴力なんて絶対しないし、もし本当にそんなことがあったとしても、何か理由があるはず)
短い返事を打ってからタクシーを降りると、ひやりとした風がびゅうっと吹いた。もう夏だというのに、思わず自分の体を抱き締めながら校舎を見上げる。
「宵くん……」
いつからだったろう。弟に、嫌われていると思い始めたのは。
* * *
「……あ、来た来た。おーい」
守衛の人に声を掛けていると、こちらに手を振る人影が見える。そのまま駆けてくるその人に誰だろうと思っていると、「待ちくたびれたよピヨちゃん」と聞いたことのある声が。そういえば、彼は弟と同じ高校に通っていたんだった。
「ようこそ、僕らの学校へ」
「残念ながら、のほほんとしている場合じゃないんだ」
「知ってる。だから、待ってたって言ったでしょ」
快慶はうきうきした様子で私の手を取り、どこかへ連れて行こうとする。
「ちょ、快慶くん? 私、先生のところへ行かないといけなくて」
「それよりも先に、ピヨちゃんに見せたいものがあるんだ」
きっと、すごく驚くと思うよ。



