“――ウチの社の七不思議の一つだよね。女性社員は必ずこの三人の中の一人には絶対に恋に落ちるって”
“――いい人だと思ったら、大抵左手薬指は売約済み”
(ああ、いやだな……)
こんなことを思い出すこと自体。こんな、最低なことを思うこと自体。
「百面相」
「……え?」
「すげえ顔。ま、大体何考えてんのかわかるけど」
(わかられたらものすごい困ります……)
ズコーッとミルクティーに逃げていると、足先にちょこんと何かが当たる。視線を上げてみれば、目の前には満足そうに微笑んでいる上司。
本当に心を読まれていたらどうしようかと内心そわそわと焦りながらも、それを嫌がれない自分もいて。ただ、……何ですかと。強く出られないままやっぱりミルクティーに逃げた。
「なんか、懐かしいよな。お前とこうして向かい合って座ってると、いろんなこと思い出すよ」
「まあ、いろいろありましたからね」
彼との出会いも再会も、全てはこの喫茶店から始まった。
「ふっ」
「?」
「いや、今思い返してみても、下手なナンパ野郎だったなと」
「そうですか?」
「そうじゃなかったか?」
「熱意は十分過ぎるほど伝わってましたから。すぐにはお応えできなかったので申し訳なかったですが」
カランと、随分前から空になっていた一石のグラスの氷が鳴る。
視線を上げると「そっか」と、どこか照れくさそうな様子で、彼はふっと笑っていた。



