【青崎伊代は立場を利用し投稿者に会いに行った】
それはもう賭け以前の問題。賭けなど取り下げられても勿論おかしくはないし、直接呼び出され査問などが行われてもいいはず。
にもかかわらず、こうしていつも通りの日々を送ることができているのが一体誰のおかげなのか。その代わりに誰が苦しんでいるのか。
わかっていないと? 気が付いていないと?
「疚しい気持ちがあったせいで、とことん逃げてましたもんね」
「その通り過ぎて言い返せねえ……」
でも彼は、それを望んではいない。だから、知らない振りをする。
その代わりに、守ってくれてありがとうと。きっと気付くと信じてくれていてありがとうと。心の中で何度も感謝を伝えた。これからも何度だって伝えよう。
「さて。破った罰はやっぱり針千本でしょうか」
「もうちょっとお手柔らかに頼む」
「これが初めてのことではないですしねー」
「悪かったよ青崎」
クスクスと笑いながら、上司の横を通り過ぎる。「悪かった。俺が悪かったから。頼むよ青崎」と、その後ろを困った顔で彼が追いかけてくる。
「黒歴史でも喋ってもらおうかなー」
「山ほどあるから勘弁してくれ」
片やアルバイト、片や部署の編集長。
私の立場は少し複雑だ。彼と親しくさせてもらっているのにはわけがある。
それは、『とある作家』の存在をなくしては到底語れない。



