21時を過ぎた頃。一石に「んじゃそこまで送るよ」といつものように言われたのだが、今夜に限っては丁重にお断りをさせてもらうことにした。
「お義父さんと折り合いが悪いのは聞いていたが、まさか義弟くんもとは」
「せっかくの親子水入らずですし、私がいない方が会話が弾むかなって」
「だからって、会社に泊まるつもりか?」
「仕事はもうしませんよ。編集長命令なので」
ネカフェに泊まるという手もアリだが、ただで泊まれるに越したことはない。
だから、早く帰ってくれと彼の背中を押す。一人になったら、一刻も早くこの部署室を掃除したいからだ。さっき一瞬変な空気になったから。
まずは換気だなと思っていたところで、部署の扉の前まで私に背中を押されていた一石が「それなら」と声を上げる。
「青崎」
「窓を開けたら空気清浄機かけて、そこら中の埃叩いて、これでもかというほど床掃除を……」
「俺の家、来るか?」
「行ったらやっぱり換気を……」
「よし。んじゃ、帰るぞ」
「…………え?」
掃除のことしか考えていなかったので、一瞬何を言われたのか全く理解できなかった。
「今夜はまだ、話したりないからさ」
「あ、あの。私はもう十分で」
「いやだ。俺が足りない」
でもそんな寂しそうな声で。泣きそうな顔で訴えかけられたら、拒否なんてできるわけなかった。



