「本人に確認をとらせたが、全く心当たりはないそうだ」
もしかすると、昼間に呼び出しを食らったのはこの確認をするためだったのかもしれない。
そう思いながら開いてみると、中から出てきたのは、文章が書かれた数枚の黒っぽい用紙。一冊の本には到底満たない、小冊子にもならないほどの短い文章の表題は、【青い青い空】と白抜きされていた。
「――き。青崎」
「あっ。は、はい」
「それを読んでいたから遅くなったことにするのか」
「あーでは、そういうことにしておいてもらえると」
何度言っても聞かないことをよく知っている編集長は、渋い顔をしながらも「じゃあそういうことにしておいてやる」と、やれやれと言った様子で笑っていた。
「切りがいいとこまで終わっ……読み終わったのか?」
「んー」
「あおさきさん」
「すみません。正直滅茶苦茶続きが気になってしまって」
「今日のところは上がりなさい。編集長命令」
「わかってますよう」
少し残念に思っていると、残っていたコーヒーを一気に飲み干した一石は、その流れで脱いでいたジャケットを羽織りネクタイを締めた。
「ん。じゃあそこまで」
「送るよ」と、あっという間に準備万端になった彼に、思わず眉間に皺を寄せる。
「私の家、ご存じですよね?」
「喫茶店の上」
ちなみにそこは、このビルの大通りを挟んだ向かい側の高層マンション。呆れた様子を隠さないでいたのだが、「だからそこまでだって」と言う彼には、折れる気など微塵もないらしい。



