(お、恐ろしい。敏感すぎる乙女心も、ちょろすぎる心臓も、……図々しすぎる恋愛脳も)
全てが不確定要素に過ぎないのに、それを自分勝手に都合のいいようにねじ曲げようとしてくるだなんて……。
(つ、都合がいいって何だ。馬鹿すぎるでしょ私)
何度か深呼吸をして、ゆっくりと顔を上げる。危うくまた、赤信号に突っ込んでいきそうになっていた。
「よかった。青崎さんをまた抱き締めないといけないかと思った」
「は? 何セクハラ?」
「違いますよ! 人命救助です!」
「って言う輩はごまんといるから、マジで相談しろよ青崎さん」
楽しそうな会話に、ふっと笑顔を返す。雨の音がうるさいからか、彼らの声がどこか遠い。
『――もう逃げないから』
それとも、先程一石の呟いた言葉が、頭から離れていかないからか。
ゆっくりと、先程までいた会社を振り返る。部署室の明かりは未だ点いたまま。
(……もう、逃げないの?)
今度はちゃんと、話をしてくれるの? ただ、引き留める理由にはしないの?
“――イックンもきっと、同じ気持ちだよ”
(……なら、私も……)
もう、逃げちゃダメだ。



