やさしい口調に、俯いていた顔を上げる。
「言ってみろ」
彼は頬杖を突きながら、何でもわかっているような顔で笑っていた。
“――イックンもきっと、同じ気持ちだよ”
だから私も、黙っているのが馬鹿馬鹿しくなって、そのまま素直に打ち明けた。
「知って欲しかったんです。今もあの本が、たくさんの人に読まれていること。そのおかげで、たくさんの賞を授与していること」
それは、他でもない彼が、自分の手で掴んだものだから。
「だから、出て欲しいなと思ったんです。授賞式に。自分のその手で、ちゃんと、受け取ってもらいたかったんです。了承を得られたら、意地でも【青い空】の授賞を上に掛け合うつもりでした」
「ふっ。そうか」
笑わないと言った彼は、そう軽く笑ったのを皮切りに、大声を出して笑い始めたのだが。
「嘘吐き上司のいる会社なんか辞めてやる」
「待て待て待て。俺が悪かった」
目元に涙まで溜めるほど大笑いした彼は、立ち去ろうとした私の腕を取って引き寄せた。
「いっ、いっこくさ」
「違うんだ。嬉しかったんだよ」
触れ合うところから伝わる体温があたたかい。程よい拘束感が心地いい。汗とは違う、でも働き者の匂いがする。
「あっ、あの」
「同じ立場なら。きっと俺も同じことをしてたから」
気付けば私の体は、彼の腕の中に閉じ込められていた。



