そしてそれが、かなり近くなってから止まる。場所は、この会場のすぐ近くだ。
冷たい雨風が容赦なく襲う。身震いしたのは、きっとそのせいだと。何度も何度も言い聞かせながら、思わず冷たくなった指先をぎゅっと握り込んだ。
何事もなければそれでいい。ただの杞憂であれば、それが一番いい。
「あ、あの、何があったんでしょうか」
殊更冷静に、現場近くにいた一般人に声を掛ける。
「えっと、喧嘩?」
「私は、ナイフを持った人が暴れたって聞きました」
「俺は、殴り合いが始まったって聞いたけど」
それはバラバラの証言のようだったが、一つだけ。その場にいた全員が、口を揃えた。
――体格のいい男性が、全身血だらけで倒れていたと。
嫌な予感に、人混みを押し退けながら駆けた。勘違いであってくれと、どれだけ願ったかわからない。
「……はあ。……はあ。……っ」
ザアザアと、雨が降る。
ランプが、ぐるぐると回る。
救急車の中へ、台に横になった人が乗せられていく。
“――……き! 目を開けてくれあおさき……っ!”
いつか夢で見た、同じ光景。けれど、これは決して夢などではない。そして、倒れているのも自分ではない。
「……のだ。さん……?」
それでも、目をつぶっているのが未だに理解できなくて。動いていないことが信じられなくて。この人が倒れていること自体、それこそ夢なんじゃないかと。
「――っ、のださんッ!!」
こんな現実があって堪るかと、気付いた時には駆け出していた。



