今ここで、何も言わずに去ったと言うことは、恐らく今回の一件のことではなかったのだろう。彼らが巻き込まれたわけではなくてよかったと、一安心すると同時に一つ疑問が残る。
なら何故、あのような必死そうな様子で声を掛けてきたのだろう――。
「君はどうしてそう勝手に動こうとするんだ! 編集長の指示が全てか! 現場にいるオレの指示なんか必要ないって?!」
「もっ、申し訳ありませんでした。お叱りは、きちんと受け止めます」
そんなことを考える余裕は、即座になくなったが。
控え室へと戻るなり、私は頭から容赦なく由良野の怒号を被っていた。何度も頭を下げた。謝ることしかできなかった。
「……誰かさんのおかげで疲れたから、オレは先に休憩を取らせてもらうことにする」
「オレが戻るまで物販ブースから一歩も出ないでね、また走り回りたくないから」と、怒り疲れたのか、部屋にあった長椅子に深く腰掛けた由良野は、そのまま脱力するように寝そべった。
その様子にもう一度頭を下げてから、バスタオルを探して彼にそっと掛けた後、静かに部屋を出た。由良野が、死んだように眠りについてしまったから。



