目まぐるしいほどの慌ただしさ、そして聞こえないところで呟かれるぼやきに、気付けばそのことを考えている余裕すらなくなっていた。
それでも神経を磨り減らしながら、必死に笑顔で対応していた時だ。妙な違和感に気が付いたのは。
「由良野さんすみません」
「何。トイレ?」
「はい。『三番チェック』入ります」
「えっ、ちょ――」
それは、飲食店でよく使われる隠語の一つ。店によって様々だが、私が働いていた喫茶店で『三番』とは、所謂お手洗いのことを示していた。
けれど、今日この場に至っては、違う意味の言葉として使われる。
【怪しい人物発見】
由良野に報告を入れた私は、見失わないうちにその場を離れ無線を飛ばした。
「こちら青崎。グッズ書籍売り場にて怪しい人物を発見。支払い時におもちゃの偽札を使用されました。此度の一件と関係はないかもしれませんが、間違えて使用してしまった可能性もあると見て、現在私服警官と追跡中です」
『わかった。特徴は』
「恐らく20代前半、女性、ビニール傘を差しながら施設の出入り口へと向かっています。ブラウスにフレアスカート」
「上がホワイト、下がブルー。髪型はボブで、グレーのベレー帽を被っています」と、隣にいた警官にフォローしてもらいながら、傘を差さぬまま最善の注意を払ってあとを付いていく。



