「それで?」
「そ、それで?」
それ以外のことで何か答えなければならないことがあっただろうか。
首を傾げながら復唱した私に、彼はすっとやさしく目を細めた。
「らしくないじゃん。どした?」
「何のことですか」
「もしかして、本当に口説かれたのか」
「まさか」
「普通に、上司として心配。どん底に元気ねえからお前」
「久々に見たわ。そのフル稼働状態」と、一石は少し、困ったような顔で笑う。
「五年前も、同じような顔してたよ。お前」
「……少し、思い出していただけです」
「何を」
「【青い空】を」
彼が先程見ていた窓の外を眺めてみる。
土砂降り具合が酷すぎて、ぼやけて何も見えなかった。まるで、今の私の心のように。
「そうか」
ただそれだけを言った上司は、すっと隣に立つ。
その横顔は、どこか五年前を彷彿とさせて。
「一石さん」
「ん?」
気付けば、口からこぼしていた。
「この世界から消えてなくなりたいって、思ったことありますか」



