それでも一向にやめようとしない彼の後を追い、ならせめてできたものを持っていってもらおうと思った私は、ロボット並みに動きを高速稼働させ、給湯室での仕事を全て上司から奪い取った。
「大丈夫だったのか」
「はい?」
湯が沸くまでの間、片手で食べられそうな軽食がないかと戸棚に頭を突っ込んだ矢先。ゴンッと頭を打ちながら顔を出すと、上司は振り返ったそこで今朝梅雨入りを発表した窓の外を眺めていた。ちらりと、こちらを目尻に見遣りながら。
てっきり逃亡劇に至るまでの話かと思っていたが、どうやら『即興♡愛の逃避行』の下手な芝居について気にしていたらしい。
「後から気にするくらいなら放置しないでくださいよ。あれが本気だったら、放置した一石さん一生恨みますからね」
「すまん」
たとえ気紛れだとしても急に『コーヒーを淹れる』と言い出すなんて、何かあるんじゃないかとは思っていたが。どうやら、多少なりとも昨日のことに責任は感じているらしかった。
「あれは右京さんが勝手に始めたんです。私も、あんなことになるとは思ってませんでしたよ」
「十分迫力と説得力はあったけどな」
「もしかして、それだけが理由で放置したとかじゃないですよね」
「いや、もう付き合ってられんと思って」
「ま、何もなかったんなら安心した」と、さらり自分のコーヒーだけ持って給湯室を出て行こうとする。彼はそれだけを聞くためだけに、あんなひと芝居を打ったらしい。
チョロ崎に関しても何も触れられなかったので、やっぱりあの時は寝ていたようだ。心配して損した。



