「用がないなら仕事に戻ります」
いち早く不穏な空気を察知し、その空気ごと持っていた紙コップをゴミ箱へと捨てに行こうとした。すると、背後からは大きな大きなため息が落ちる。
「あーやめだやめ。慣れないことはするもんじゃねえな全く」
振り返ると、立ち上がった一石がぐうっと一つ伸びをしている。
それをじっと見ていると、べーと舌を出された。
「なっ……」
「悪かった悪かった。俺が悪かったから、拗ねんなよチョロ崎さん」
「そのお詫びに、たまには俺がお前にコーヒーを淹れてやろう」と、この部署で一番忙しいであろう編集長自ら給湯室へ行こうとするので、大慌てで止めた。
「だ、大丈夫です」
「まあまあ。そう遠慮すんな」
(遠慮じゃなくて拒否してるんです……!)
「他にもおかわりいる奴はー?」
幾ら言っても、「まあまあ」としか言わない上司の手を煩わせるわけにはいかない。下っ端の仕事を取る暇があるなら、少しでも体を休めてもらわないと。ただでさえ、ここ最近の多忙で部署全体が疲労困憊しているのだから。



