「そう言われてしまうとそうなんですけどねー」と、よくわからない返答が聞こえたかと思ったら、どこか納得していない様子で新堂は自分の仕事に取りかかっていった。
私はほぼ補助的役目しかしていなかったけれど、編集者ともなると打ち合わせが終わってからが勝負と言っても過言ではないのだろう。
二人の新作が楽しみだなと、仕事に一段落が付いた私は、空になったみんなの紙コップを回収していた。
「おいチョロ崎」
ぴたりと体の動きから頭の思考回路全てが止まる。心臓だけが、バクバクとうるさくなった。
「一石編集長? 何故チョロ崎なんですか?」
「目の前をうろちょろしてるからチョロ崎」
(な、なんだ。そういう意味か)
隠れて安堵の息を吐こうとしたら、視線がデスクからびしびしと飛んできた。
そういえば呼ばれていたんだと、慌ててデスクへと駆け寄る。
「何でしょうか」
「お前、俺になんか言うことないか」
まさか、部署にたくさん人がいる中、昨日のことを話せと?
「ありません」
「言い切りやがったなお前……」
「寧ろ言わないといけないのは編集長の方じゃないんですか」
「言うようになったじゃねえか」
痴話喧嘩をした――そんな噂をされ、正直今まで避けていたのは事実だ。
「あわ、あわわ。どうしちゃったんですかお二人とも~」
しかし、昨日の今日でどうだ。あれだけ過保護に守り守られ、浮気だの不倫だの熟年夫婦みたいだの、ありもしない噂を立てられたからか、バチバチと火花を散らして喧嘩までできるようになったのだ。
不在がちだった新堂が慌てるのも無理はない。正直部署の人たちはいい迷惑だろう。



