『いよちゃんどうしたの? どっかいたい?』
『よいくん……』
『じゃあ、いたいのいたいのとんでけーって、してあげるね!』
『……うん。ありがとう』
母が突然この世を去った時、弟の存在が悲しみを吹き飛ばしてくれた。
『宵くん』
『んー?』
『宵くんは、ずっと私の傍にいてくれる?』
『うんっ! だってぼく』
――いよちゃんのこと、だーいすきだもん!
「はあ……」
ベランダに出ると、冷たい雨風が容赦なく降り注いだ。このまま打たれ続けていたら流石に風邪を引くかもなと、体を抱き締めながら自分の足下を見下ろす。
父は、幼い頃に病気を患って。母は、今の父と再婚してすぐに。病とは一切無縁の、快活で、口では男の人にも負けないくらい強かったけれど、交通事故で呆気なくこの世を去った。
『父さんに免じて出て行けとは言わねえ。でも余計なことはすんな。迷惑なんだよ』
再婚相手の父親とは、何度か打ち解けようと試みたことがある。けれど彼は母を心から愛していた。だから、娘には一切の興味を示そうとしなかった。
その父親の連れ子が、義弟になる宵。再婚した当初はまだ幼かったが、それでも急にできた義姉の存在に戸惑いはあったのだろう。きっと今でも。
『……もう、どうでもいいんだよ』
いつからだったろう。彼に、嫌われていると思い始めたのは。



