エレベーターに乗り込むや否や、弟は口を開いた。
「誰。さっきの眼鏡」
「か、会社の人だよ。部署は野田さんのところだから違うんだけど、何度か助けてもらったことがあって。今日は御礼に食事を奢らせてもらうことにしたの」
「あっそ」と興味なさげな声が狭い箱の中に響く。でも、掴んだ腕は放してくれなかった。
「……あの、宵くん」
「さっきの何」
「え?」
「欠陥とか冷たい人間とか言ってたろ、眼鏡が」
眼鏡を連呼する弟に、右京さんねと彼の名前を教えてから、どう言おうかと少しだけ考える。
なかなか考えをまとめられないでいると、あっという間にエレベーターが目的地に着いた。その間じっと、弟は答えを待ってくれていた。
「……背中をね? 押してもらってたの」
「お前が欠陥人間だから?」
「ううん。そうじゃないよって、教えてくれたの」
だから、あなたと話がしたいと思った。思えるようになった。こんな風にまた、会話ができることが嬉しかった。
「もう一度頑張りたいなって思ったの。家族として」
「無理だろ」
「や、やってみないとわかんないよ?」
「無理だよ、お前には」
「……どう、して……?」
「そんなのお前が一番よくわかってんだろ」



