ようやく動き始めたエレベーター。安堵のため息とともに後ずさるように壁にもたれかかると、「本当にお疲れなんですね」と珍しく心配そうな声。それも一瞬のことだったが。
「ていうか本当に遅すぎません? 何してたんですか青崎さん」
(上司がいた時と態度が違い過ぎやしませんか)
本性を知っているからか、全く取り繕うとしない彼に苦笑を浮かべながら、ですから残業を少々と答える。
すると、そもそも残業だったことを信じていなかったようで、訝しげな目がじっとこちらを見つめてきた。
「青崎さんはアルバイトだとお聞きしましたが。まさか、残業が例の一件のペナルティーだと?」
「そういうわけではないんですが。ちょっと、いろいろありまして」
いろいろも何も、完全に自分が原因なのだが。
「……いろいろ、ですか。さっきの方と疚しいことでも?」
完全に不意を突かれ、彼が言った言葉をすぐに理解できなかった。
「な、何を言っ」
「もう少し動揺は上手く隠せるようにならないと、すぐに関係がバレますよ」
「そそ、そんなんじゃありませんから」
「あまり強く否定するのも逆に怪しまれる要因になりますね」
「……!!」
「ま、僕はどちらでも構いませんが」
掻き乱すだけ掻き乱しておいて、「いっそ興味ありませんし」と。それから「釈明お願いしますね」と抜かりなく声がかかる。
そのしれっとした横顔に、ふつふつと怒りがこみ上げた。
「あの、私をどう思おうとあなたの勝手ですが、全く無関係の上司を巻き込まないでいただけますか」
「…………」
「右京さん。今あなた、すごく失礼なことを言った自覚はお有りですか」



