青い青い空


「ふっ、馬鹿だなあ。そんな過去があったって知ったら、これ幸いって遠巻きにしてた奴等が食い付いてくるぞ。ただでさえ髪を切って磨きがかかったというのに」

「そんな気さらさらございませんから」


 しかし、その噂の元凶が目の前にいるとわかると、さっきまでの興味なさそうだったのが一変。嫌な予感に、返してと本に伸ばした手はさらりと躱され、その頃の話を聞きたそうな視線をガンガン飛ばされた。


「な、何か期待しているであろうところ申し訳ないんだけど、面白いことなんか一つもないよ」

「面白いかどうか決めるのはあたしだから」


 いいネタが拾えそうだと、目を爛々と輝かせている彼女は、話をする他に選択肢を与えてはくれないらしい。

 申し訳なさを、ため息とともに存分に吐き落とした。


「忘れ物があったから、追いかけて届けようと思っただけだよ」

「忘れ物?」

「バイト先の喫茶店。そこのお客さんで」

「ほほう。そのお客さんの情報を詳しく」

「何としてでも恋愛方向に持って行こうとしてるでしょう」

「ネタが転がっていそうな匂いがしたもんで」


 仕事柄、それも仕方がないことなのだろう。髪を一束咥えながらフフフ……と不気味に笑う彼女は、月刊少女漫画雑誌編集者。そして今は、少女漫画家の担当でもあるから。