そのまましばらく身構えていた。でも何も反応がなくて、どうしたのだろうかと恐る恐る目を開けると、背後に立つその人と、夜の雨のガラス越しに目が合う。
思っていたよりも近い距離に、息が止まった。
「それ、そのままでいいよ。俺がやっとく」
「えっ? あ。は、はい」
でも、思っていた内容とは全く無関係な話に、思わず大きく安堵の息を吐く。やっぱり、ただ寝起きが素晴らしくよかっただけのようだ。
そう思っていた矢先、やさしい気配がかすかな煙草の匂いを連れてくる。
「だから、ちょっと待ってろ。すぐ戻るから」
ちいさな息づかいがした。
ゆっくりと視線を上げると、そっと窓に腕を預けるように寄りかかったその人が、こちらを覗き込むようにじっと見つめていた。
今にも触れそうなほどの近い距離から、そこはかとなく漂う甘い温度に堪えきれなくて、思わず口を開く。いえ、大丈夫ですと。
「こ、この後用事がありますので」
「家に帰る用事だろ」
「ひ、人と会う約束をしてますので」
「この時間から? 出不精のお前が?」
だったら悪いんですかと、半ば喧嘩腰になりながら窓と一石のサンドイッチから抜け出す。やっとまともに息が吸えた。
「で、では急いでますので失礼しま」
「話すって言っても?」



