水難の相のせいか。液体と相性が悪い彼女は、ナメコ汁がどうやらかなり気管に入ってしまったらしく、咳き込む様子からして暫くは止まりそうにない。
なので落ち着くまで本に集中するかと思っていた矢先、前から伸びてきた手にひょいっと本を奪われてしまった。
「ごほっ。……ねえ。自分が社でなんて言われてるか、君は知っているのかい」
「何だろう。本オタとか、陰キャとかかな」
「窓際の君」
「……ごめんなさい。どういう意味?」
「深窓の佳人とそう大差ない意味」
「え。阿呆らし」
「じゃあ何か? 何故食堂がいつも賑わってるのか、外回りの奴等がわざわざ戻ってきてまで食べてるのか知らないと?」
「ほっぺが落ちるほど美味しいからでしょう」
「空腹一割。あんたが九割」
「それを言うなら、黒瀬ちゃんの方でしょう」
「一般人はまだしも、会社の人たちはあたしがただの顔がきついだけの頭すっからかん女だってこと知ってるから」
「さ、流石にそこまでとは思ってないと思うよ? お馬鹿具合がかわいいとは思ってるかも知れないけど」
ね! そうですよね皆さん!
そう思って視線を食堂全体へと向けると、何故か不自然なくらいに人と目が合っては逸らされる。
え。ま、まさかですよね……と、僅かに顔を引き攣らせた。



