本から顔を上げると、真っ直ぐにこちらを見つめる視線とかち合う。少しだけ落ち着いていたはずの動揺が戻ってきて、慌てて顔を逸らした。
心臓がうるさい。顔が熱い。
「なあ。したのかよ」
「し、してないよ」
「本当に?」
「言ったでしょ。生まれてこの方、キスしたこともなければ誰かと付き合ったこともない。手を繋いだ異性だってお父さんと弟くらいだし」
「え。それ本気で言ったん? てかお前いくつだっけ。確か俺の三つ上じゃなかった?」
「人それぞれでしょ。年齢は持ち込まないでよ」
あと、三つじゃなくて五つだからと正直に答える。この年齢でいろいろと未経験なことを多少なりとも恥ずかしいと思っていたが、それを盛大に腹を抱えて笑われてしまっては、流石に怒りに似たものも生まれるというもの。
「ははっ。なんか、ルーツを垣間見た気がするわ」
「それ以上笑うと怒るぞ」
「高嶺の花も、いろいろと苦労してんだな」
「何のこと?」
「男って単純な生き物だろ?」
「? そうだね」
「だからまあ、取り敢えず一安心、かな」
「……何が?」
「そういえばさ」



