「そっちは小説。噂の方はただの交通事故だね」
本を片手に早口でこぼすと、目の前からは珍しいものでも見たような雰囲気が漂ってくる。
「あ」
本から視線を上げたちょうどその時、咥えていた唐揚げが、ぽろりと落ちて転がっていった。確か最後の一個だったはず。
ああかわいそうに。きっと次はいいことがあるよ。
グッと一度だけ親指を立て、ページを一枚捲る。そして、一呼吸開けて口を開いた。
「でもその分だと、私が知ってる話にだいぶ脚色が入ってるね」
「そうなんだ……」
今はそれどころじゃないんです。落ちていった唐揚げが、気になって気になってしょうがないんです。
そんな返しに、気付かない振りをして話を続けた。
「追いかけてたのは虹じゃないらしいよ」
「じゃあ何追いかけてたの」
「……男の人?」
「おとこ~?」
「そうそう。その途中で交通事故に遭ったって」
「おおごとじゃん」
「そんなことないよ。事故っていっても未遂だし、怪我一つなくピンピンしてたから。まあ、車の運転手にはこっぴどく怒られたけど」
「まるで、自分のことのように話すんだねえ」
本にしか興味がないと思っていた同期の新しい一面に「ほう」と感心しながら、彼女は落ちた唐揚げに「南無」と両手を合わせた後、ナメコ汁を豪快に啜った。
「だって私のことだし」
「んっ、ごほっ」
そして、豪快に噎せた。



