「……あ。思い出した」
そこら中をダスターで拭き終わった頃、コンタクトから眼鏡に替えた彼女が戻ってくる。正統派いい女が、ちょっといやらしい感じにいい女になっていた。
「水難の相が出てるって言われたんだったあたし」
「ごめん。ほんとごめん黒瀬ちゃん」
「ううん。元はと言えばあたしが悪いから」
「そんなこと絶対有り得ないから」
謝罪の応酬のおかげで、暫く私たちは注目の的だった。
* * *
「ほういえは」
「お腹空いたから注文してきちゃった」と、鯖の竜田揚げの次に人気な定食の大きな唐揚げを頬張りながら、何かを思い出したらしい彼女は口を開いた。
「あらすじ聞いて、聞いたことある話だなって思ってたんだ」
「読んだことあった?」
「あたし、活字見たら速効で寝られるタイプ」
「出版社に勤めている人間としてそれは如何なものなのか」
「いいのいいの〜」と、それでも誇らしげにグッと親指を立てていた彼女だったが、「昔さ、噂なかった? それこそあたしらが学生の頃に」と言うと、その手は少し悩ましげにそのまま顎の下へと添えられた。
「うろ覚えなんだけどさ、確か……」
その虹を追いかけていたせいで、転落死した――って。



