翌朝、職場に着く頃には大雨は降り止んでいた。
「長時間運転させてすみません」
「キスでちゃらにしてあげる」
「あ、ちょっとすみません」
「うん。つれない君も好きだよ」
寝不足からか、それとも疲れからか。頭が働いていない了安に一言、待っていてくださいと伝えた私は、まだ疎らに人が行き交う歩道橋へと駆けた。
きっと誰かと思い切りぶつかってしまったのだろう。一人の男性が、ぶちまけられた鞄の中身を急いで拾っていた。
「大丈夫ですか。手伝いますよ」
「――! あ、ありがとうございます」
このご時世、個人情報の保護だのプライバシーの侵害だのと、やたら文句を付ける人も少なくない。面倒事には巻き込まれたくはないが、流石にこの場を放ってはおけなかった。
「お荷物だけですか? 怪我とかはありませんか?」
「は、はい。大丈夫です」
それならよかったと、最後の荷物を拾って渡す。
では、失礼しますねと一礼をして、その場を後にした。
(……あ。もしかしてあれ、虹かな)
朝から誰かのお手伝いができるなんて、お礼を言ってもらえるなんて、気分がいい。
そんな風に気を抜いていたからか。それとも、雲間から見えるそればかりに気を取られていたからか。雨で濡れていた歩道橋の階段に、完全に足を取られた。



