冷房でもつけたのか、一気に車の温度が下がったように空気が冷え切る。
「そこ開けて。飴入ってるから」
「は、はい」
信号待ち。目の前にあるダッシュボードを指差した了安の有無を言わさぬ圧力に、怖ず怖ずとそこを開ける。
「わっ、ちょ。待っ、うわ!」
バラバラバラっと、為す術なく零れ落ちてくる飴玉の数々。知らなかったんです。最高級外車のここが、まさかキャンディーボックスにもなるだなんて。
「えっと、何味がいいですか?」
「何でもいい」
と言うので、キャンディーボックスに残っている中から一つ取って渡す。すると、それを無言で受け取った彼はバリッと袋を破き、ぽいっと社内に捨てた。最高級外車まで汚部屋にするつもりかこの人は。
取り敢えず手の届く範囲で落ちた飴玉を拾っていると、左斜め上の方からボリッボリッと、粉砕されていく飴玉の音が。
今まで何にも気付かない振りをしてきたが、流石にもうやめておこう。でないと、彼の血圧と血糖値と、あと歯が心配だ。
「あの、せんせ」
「危なっかしくて心配になるよ」
ただ上司を名前呼びしていることの、どこに危ないことがあるというのか。こんなことを考えること自体非常に図々しいし、烏滸がましいにも程がある。
「あの先生、一石さんはただの上司で、それ以上の関係は何も」
「君はそうかもしれないけど、向こうは思っていないかもしれないよね」
「編集長は、部署の全員に下の名前で呼ぶように言っていまして」
「もしそうだとしても、君に対してはちょっと過保護すぎない?」



