「まさか、先生がそんなことを考えていらっしゃるとは思ってもみませんでした」
「怒らないの?」
「怒って欲しいんですか?」
「……ちょっと、怒られてみたいかも」
「だって君、締め切りギリギリの時だって、絶対に怒ったりしないだろう?」と、少し目を爛々と輝かせている彼には大変申し訳ないのだけれど。
「怒りませんよ。先生は原稿を落とすような人じゃないって信じているので」
「伊代クン……」
「でも先生がお望みだと仰るので、締め切りが迫ってきたら存分に怒ってみようかなと思います」
「うん。余計なことまで言ったね僕」
クスクスと笑い合いながら、窓の外を見遣る。
薄らと、まだ上っていない太陽が、朝の気配を連れてこようとしていた。
「ねえ伊代クン。少し眠らない?」
「あ。運転代わりましょうか」
「そういうことじゃなくて」と、少し拗ねた表情の了安が、そっとこちらに手を伸ばしてくる。
しかし、触れるか触れないかのところで後ろからクラクションを鳴らされた。少しだけ悔しそうに手をハンドルに戻し、車を走らせながら、彼はぼそり呟く。
「……目、赤いからさ」
「眠れてない? また変な夢のせいで」と心配そうに彼は言うけれど、そもそもの自覚があまりなかった。
「今日は、夢は見ませんでした」
「そうなの?」
「はい。気が付いたら朝……と言うには早い時間でしたけど」



