「――青崎さん」
名前を呼ばれたところで、沈みかけていた意識が一気に浮上する。目の前には、酷く心配そうな顔でこちらを見上げる右京がいた。
「大丈夫ですか。顔色が」
「……すみません。右京さんにまでお手数をおかけしてしまって」
そうとわかれば長居は無用。手持ちの資料だけで仕上げられないのなら、たとえ怒鳴られようと頭を下げればいい。自分が使えないレッテルを貼られるよりも、一石に迷惑を掛ける方が余程嫌だ。
ご迷惑をおかけしましたと、荷物をまとめて海外部署を後にしようとしたら、「は?」と軽蔑の視線を向けられた。
「まだできていないのにどこへ行くつもりですか」
「取り敢えず、足りない資料を探しに行ってきます」
「探し終わった後、戻ってこられるのでは」
「それは……」
きっと、そこまでの必要はないだろう。彼の目的は私を困らせること。仕事ができては困るのだ。
足りない部分を見つけられれば、あとは自分の部署でも何とかできそうなのでと伝えると、彼は苛立ちを隠そうともせずに告げた。
「それ、本気で言ってますか」
「え? どういう意味で――」
その時、海外部署の扉が「青崎さんいますか?!」という大声と共に、大きな音を立てて開いた。負傷した扉はガタンと存分に外れた。
「うわ! どうしたんですかこの扉! しっかりしろ! 立つんだ扉~ッ!」
「ど、どうしたんですか新堂くん」
入社二年目の彼が、何故か汗だくで壊れた扉に抱き付かれていた。



