盛大に椅子から転げ落ちた野田は、つい先日までフランス支社にいた。毎年出し続けていた甲斐あり、帰国願いが今年度ようやく受理されたよう。
「元気そうだな。ちと痩せたんじゃないか? ん?」
「あはは。どうでしょう。最近体重計に乗っていないので」
彼も彼で完全に子ども扱いしているようで、短くなった髪の毛を存分に撫で回される。嫌ではないし、彼も嬉しそうだから、結局止めるに止められず。これでもかと言うほどぐちゃぐちゃにされた頃、抱えていた資料の山に大方の事情は察してくれたようで。
「来るのが遅えわ」と、軽く頭を叩かれた。
「手がいるか? それとも悪ぃ奴ぶっ潰してきてやろうか」
「お、お気持ちだけで十分です」
本当にやりかねないから、この人の場合。
私が文芸部署を出て行った理由は二つ。
一つは、編集長が朝から会議で一日中席を外しているから。ただでさえ多忙で苛ついている中、苛つかせる原因がもたもたと仕事をしていれば、余計に部署内の空気や効率が悪くなると思ったから。
もう一つは、文芸部署の設備が古いから。スピード勝負の今、マイペースにのろのろとしか処理できないパソコンを相手になどできなかった。
「右京のを使え。馬鹿みたいにすぐ終わるぞ」



