サヨナラは、向日葵の香りがした。

神様は意外と話がわかるやつだった。
トラックに跳ねられ、自分の体がひどく冷たくなっていくのを感じた時、俺が願ったのは「生きたい」じゃなかった。 

「カナを一人にしないでくれ」だった。

おまけの49日間。再会したカナは、俺が消えた1週間で、驚くほど痩せてしまっていた。
 
「……カナ、ひどい顔」
 
あの日、誰もいない教室で声をかけた時、実は足が震えていた。幽霊になった俺に、彼女は気づいてくれるだろうか。

カナが俺の名前を呼んでくれた瞬間、死んだはずの心臓が、もう一度脈打った気がした。
 
理科室に隠した小瓶を取りにいった夜。
カナの震える右手に、自分の手を重ねた。感触はない。温もりも伝わらない。それでも、俺の感覚の中では、確かにカナの温かさを感じていた。

「カナ…。本当はそれ、お前に直接渡したかったんだ」

透き通っていく足元を見つめながら、内心焦っていた。
思い出を消すごとに、俺の時間は削られていく。それでも、カナの笑顔を一つ取り戻せるなら、俺の存在なんていくらでも削れてよかった。
 
映画館で、半分以上残ったポップコーンを見た時。
夏祭りで、金魚すくいのポイを一緒に持った時。
 
カナは「幸せだ」と笑ってくれたけど、僕は知っていた。
僕が笑えば笑うほど、カナは僕がいなくなる未来を恐れて、夜中に一人で泣いていることを。
 
だから、海で花火をした時、僕は最後の嘘をついた。

『未練がなくなれば、消えるのが早まる』

……そんなの、真っ赤な嘘だ。