想いはいつか、本物になる。〜契約結婚脱出までの私たちの365日〜

 そう言って頷いてみせるが、もともと一人暮らしだったのだから、実際はそうでもない。

 凱斗さんから家にあるものは自由に使っていいと言われているので、立派なホームシアターで映画を観たり、リビングの一画にあるトレーニングコーナを試してみたり、近くのお店を開拓したり。

 むしろこれまでより、一人の時間を満喫してしまっている。

「つき合ってる時は、なんとか時間を作って会ってたけど、結婚は生活だからね」

 しみじみとした口調で、先輩は言う。

「私達みたいな職種の人間は、一緒にいる努力をしないと、あっという間に気持ちなんて冷めちゃうわよ」
「……そんなものですか」
「そういうのたくさん見てるもの。結婚してるからって油断してちゃダメよ」
「肝に銘じます……」

 先に紙コップの回収に出て行った先輩の後姿を見送る。

 結婚という制度に胡坐をかかずに努力を続ける先輩は、きっと私生活でも素敵なパートナーなのだろう。

 私と凱斗さんが結婚して一緒に暮らしているのは、お互いの利益を享受するため。

 双方に気持ちがあるわけじゃないから、今まで通りの生活が脅かされなくて、仕事に集中できればそれでいい。