想いはいつか、本物になる。〜契約結婚脱出までの私たちの365日〜

「凱斗さん、お芝居が上手すぎるんじゃないですか?」
「急に触れて悪かった。父さん相手だといつも、ついカッとなってしまうんだ」

 お父さまとお母さまの前で、あんな熱烈なセリフを言われて、手まで取られて、つい本気にしそうになっただなんて、とてもじゃないけれど言えない。

「私なら平気ですから、気にしないでください」

 なんでもないことのようにそう言ったけれど、今でも手のひらに凱斗さんの体温が残っているようで、なんだか落ち着かない。


 都内に入ったところで、長い信号に捕まった。

「父と和解できたのは、蒼羽のおかげだな」
「私は何もしていませんよ」

 凱斗さんの婚約者として、ただ隣に座っていただけだ。

「そんなことない。蒼羽がこの結婚を受けてくれたから、父と話すことができた」

 そんなのはたぶん、ただのきっかけだ。

「頑なだったお父さまの心を動かしたのは、間違いなく凱斗さんです。凱斗さんが頑張ってる姿を見て、お父さまも凱斗さんのことを受け入れてくださったんだと思います」
「蒼羽……」

 凱斗さんが何か言いかけたところで、信号が青に変わった。

 彼は一瞬迷うような表情を見せた後、何も言わず車を発進させた。