想いはいつか、本物になる。〜契約結婚脱出までの私たちの365日〜

「青柳さんはお医者様になろうとは思わなかったんですか?」

 家族全員が医療関係または事業経営に携わっているのに、なぜ? 
 素朴な疑問を口にした私に、青柳さんがチラリと視線を送る。

「蒼羽、違うだろ」
「あ」

 一応練習して来たのに、また苗字呼びしてしまった。こうやって指摘されたのも、今日だけで三回目だ。

「ごめんなさい、凱斗さん」

 慌てて言い直すと、凱斗さんは満足したように頷いた。

 照れもあり、なかなか名前呼びが出来ない私に比べ、凱斗さんは私を名前で呼ぶことにあっさりと慣れてしまったようだ。

 何をやらせても器用な人だ。

「俺は、子供の頃からずっとパイロットになりたかったんだ。大学もそれで選んだ。おかげで、父とはこじれてしまったが」

 お父さまは、他のご兄弟同様、凱斗さんも医療の道に進むこと、そしていずれはご実家の経営に携わることを希望されていたという。

「大学進学の援助もしてもらえなくて、自分で捻出したんだ」
「そうなんですか? まさか、アルバイトだけで?」
「いや、最初だけ母方の親族から借りたり、バイトも掛け持ちでやってた。資金ができてからは色々と運用したりして」
「株とかですか?」

 学生のうちから?

「まあそんなとこ」